皆さん、こんにちは。鎌倉駅西口より徒歩3分の鶴岡歯科医院です。
矯正治療中に「装置が取れてしまった!」というトラブルは、意外と多くの患者さんが経験するものです。特にワイヤー矯正では、ブラケットやワイヤーが外れたり、マウスピース矯正では装置が破損したりすることもあります。こうしたトラブルは、慌ててしまう方が多い一方で、正しく対処すれば大きな問題に発展するのを防げます。本記事では、矯正装置が取れる原因、取れてしまったときの適切な対処法、そして放置するとどうなるのかを、矯正治療を専門とする歯科医師の立場から詳しく解説します。
▼矯正装置が取れる原因
◎硬い食べ物や粘着性のある食べ物の摂取
矯正装置、とくにワイヤー矯正で使用されるブラケットやバンドは、歯のエナメル質に専用の接着剤で固定されています。しかし、これらは永久的な固定ではなく、歯に過度な力が加われば簡単に脱離してしまいます。特にリスクが高いのが、硬い食べ物(ナッツ類・せんべい・氷など)や粘着性のある食品(キャラメル・グミ・お餅など)です。これらの食べ物を噛むことで、咬合圧が局所的に加わり、接着剤の剥離やブラケットの破損を引き起こすことがあります。
また、前歯で咬み切る動作によってもワイヤーが変形することがあり、歯の移動に悪影響を与える可能性があるため、矯正治療中は食事の内容や食べ方にも十分な配慮が必要です。
◎歯ぎしり・食いしばりなどの口腔習癖
夜間の歯ぎしり(ブラキシズム)や、無意識の食いしばり(クレンチング)は、矯正装置にとって大きな負担となります。これらの習癖によって、持続的または断続的に過剰な咬合力が加わり、装置の接着面が微細なひび割れや剥がれを生じることがあります。
特にマウスピース矯正の場合は、素材が柔軟なポリウレタンやPETG樹脂でできていることが多く、長時間の強い圧力で微細な変形が蓄積され、フィット性の低下や破損に繋がることがあります。睡眠中のブラキシズムが疑われる場合には、補助的にナイトガードを併用することも考慮されます。
◎装置の経年劣化・接着剤の変質
矯正装置は数か月から数年にわたって装着するため、使用環境や経過時間により、構造体や接着剤が劣化していくことがあります。特に接着剤は、唾液中の酵素やpH変動、温度差、咀嚼圧などによる化学的・物理的影響を受けて脆弱化しやすくなります。
また、歯の表面にプラークが付着している状態で装置を接着すると、十分な接着強度が得られず、時間経過とともに脱離するリスクが高まります。矯正中は特にブラッシングの精度が求められ、定期的なメンテナンスによって清潔な口腔内環境を保つことが装置脱落の予防にも繋がります。
◎外的な衝撃・転倒・スポーツ時の接触
矯正装置が取れる原因の中でも突発的なのが、事故やスポーツ時の外傷によるものです。たとえば、ボールが顔面に当たったり、転倒時に歯を強打したりすることで、ブラケットが歯から外れたり、ワイヤーが折れてしまうことがあります。
特に接触の多い競技(バスケットボール・サッカー・柔道・ラグビーなど)では、マウスガードを着用することが推奨されます。マウスガードは歯や装置を保護するだけでなく、口腔内の裂傷や脳震盪のリスクも軽減するため、安全管理上きわめて有効な手段です。装置が破損しやすい場面では、日常生活の中でも予防意識を持つことが重要です。
▼矯正装置が取れたときの対処法
◎まずは口腔内から装置を安全に取り除く
ブラケットやワイヤーが外れて口の中に残っている状態は、誤飲や粘膜の損傷、場合によっては気道閉塞などのリスクを伴います。特にワイヤーの先端は鋭利になっていることがあり、舌・頬・口唇などの軟組織を傷つける可能性があるため、速やかに取り出す必要があります。
ただし、無理に引き抜こうとすると歯や周囲組織を傷つけるおそれがあるため、指先やピンセットを使ってやさしく取り出しましょう。お子さんの場合は、動揺や恐怖心を抑えるためにも、大人が落ち着いて対応することが大切です。
◎外れた装置は破棄せず、清潔に保管
外れた矯正装置や部品は、装置の破損状態や再接着の可否を判断する上で貴重な診断材料になります。歯科医院では再利用できる場合もあるため、必ず捨てずに保管しましょう。
保管の際は、装置を流水で軽くすすいだうえで、清潔なティッシュやチャック付きのビニール袋に包み、乾燥した状態で持参してください。汚染された装置をそのまま口腔内に戻すと感染リスクが高まるため、自己判断で再装着するのは避けましょう。
◎装置を自力で戻すのは厳禁
矯正装置は、歯の移動を科学的にコントロールするために、個々の歯の位置・角度・力の方向を精密に設計した上で装着されています。そのため、自己判断で外れたブラケットやワイヤーを元に戻そうとすると、誤った位置に装着してしまい、歯の動きに異常が生じるおそれがあります。
また、接着面の汚染や唾液の混入によって再接着の成功率が低下するだけでなく、歯のエナメル質に損傷を与えるリスクもあるため、必ず歯科医師の管理下で処置を行いましょう。
◎歯科医院への連絡と早期の受診を
矯正装置が外れた場合は、できるだけ早めに担当の歯科医院へ連絡し、状況を正確に伝えることが重要です。以下のような情報をあらかじめ整理して伝えると、適切な対応が受けやすくなります。
・どの部位の装置が外れたか(例:上顎右側の犬歯のブラケット)
・外れた装置の状態(完全に脱落/一部がぶら下がっている/ワイヤーが曲がっている など)
・痛みや違和感の有無
・出血や粘膜の損傷の有無
治療計画に大きな影響を及ぼす可能性があるため、次回の定期調整日まで待たず、必要に応じて早期の受診を行いましょう。特に成長期のお子さんや歯の動きが活発な初期段階では、装置の破損や脱落が歯列全体のコントロールに及ぼす影響が大きくなるため、迅速な対応が求められます。
▼矯正装置が取れたまま放置するとどうなる?
◎歯の動きが予定通り進まなくなる
装置が外れたままになると、矯正力がかからないため、歯が動かなくなります。これによって治療期間が延びるだけでなく、後戻りが起こるリスクも高まります。場合によっては、元の歯並びに戻ってしまうこともあるため、早めの対応が肝心です。
◎噛み合わせに悪影響が出ることも
装置が取れて一部の歯にだけ力が加わり続けると、噛み合わせのバランスが崩れてしまう可能性があります。これにより、咀嚼時の違和感や顎関節への負担が増し、別のトラブルを招くこともあります。
◎むし歯や歯周病のリスクが高まる
ブラケットが外れた部分は、歯の表面がむき出しになり、汚れがたまりやすくなります。また、装置がずれて残っている場合は、歯みがきしにくくなり、むし歯や歯ぐきの炎症(歯肉炎)を引き起こすこともあります。
◎痛みや口内炎の原因になることも
外れた装置やずれたワイヤーの先端が頬の内側や舌に当たると、痛みや口内炎を引き起こすことがあります。特にお子さんは口腔内が敏感なため、放置によるトラブルが起こりやすくなります。
▼まとめ
矯正治療中に装置が取れてしまうのは、決して珍しいことではありません。しかし、取れたままにしておくと歯の動きが止まったり、噛み合わせや歯の健康に影響を及ぼしたりと、治療に支障をきたす可能性があります。
取れてしまった場合は慌てずに、まず口腔内の安全を確保し、装置を保管して歯科医院へ連絡しましょう。正しい対処を行えば、治療への影響を最小限に抑えることが可能です。矯正装置が取れた際の対処法を知っておくことで、いざという時にも冷静に行動できます。鎌倉駅西口の鶴岡歯科医院では、矯正治療中のトラブルにも迅速に対応しておりますので、お困りの際はいつでもご相談ください。