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非抜歯矯正のメリット・デメリットを詳しく解説

皆さん、こんにちは。鎌倉駅西口より徒歩3分の鶴岡歯科医院です。

矯正治療と聞くと「歯を抜かないとできないのでは?」と心配される方が多くいらっしゃいます。しかし、すべての症例で抜歯が必要なわけではなく、近年では「非抜歯矯正」を希望される患者さんも増えています。歯を抜かずに歯並びや噛み合わせを整える治療法は、見た目や健康面で多くの利点がある一方、適応症例や治療の限界についても理解が必要です。今回は、非抜歯矯正のメリットとデメリットについて、医学的な視点から詳しく解説いたします。

 

▼非抜歯矯正のメリット

  1. 健康な歯を残せる

非抜歯矯正のもっとも大きな利点は、健康な永久歯を温存できる点です。抜歯は外科的処置であり、歯周組織や骨に与える侵襲は少なからず存在します。抜歯により隣接歯の挺出(浮いてくる)や、歯列全体のバランスの変化が起こる可能性もあります。

 

一方、非抜歯矯正では、歯列全体の調和を保ったまま自然なアーチフォーム(歯列弓)を活かすことができ、咬合(噛み合わせ)機能の維持にも有利です。噛み合わせは単に上下の歯が接触していればよいのではなく、咀嚼筋や顎関節、歯周組織と連動した「咬合の三位一体」として評価されるべきです。歯の数が減ることでこのバランスが崩れるリスクを回避できる点は、非抜歯矯正の大きな魅力です。

 

  1. 顎の成長を活かせる(特にお子さんの場合)

小児期の非抜歯矯正では、顎骨の成長を誘導・活用することができます。特に混合歯列期(乳歯と永久歯が混在する時期)では、機能的矯正装置(例:バイオネーター、フレンケル、プレオルソなど)や拡大床を用いることで、上下顎の骨格的な成長バランスを整え、歯が並ぶスペースを確保することが可能です。

 

この時期の矯正は“骨格レベルの介入”ができるため、将来的に抜歯が必要になるリスクを大きく減らせます。また、口腔筋機能療法(MFT)などを併用することで、口呼吸や舌癖といった不良習癖を改善し、歯列の安定にも寄与します。

 

なお、顎の成長を活かせるのはあくまで成長期に限られますので、早期の相談と適切な時期での介入が重要です。

 

  1. 口元のボリュームを保てる

矯正治療では「口元の審美性」も重要な要素です。抜歯矯正によって前歯を大きく後退させると、唇の突出感が減少し、口元がフラットまたは凹んだ印象になることがあります。特に中顔面(鼻と唇の間の部位)の支持性が弱くなると、加齢に伴う「ほうれい線」や「口角のたるみ」が目立ちやすくなることも報告されています。

 

非抜歯矯正では、前歯の後退量が比較的少ないため、口元の自然なふくらみや輪郭を保ちやすく、結果として若々しく健康的な顔貌を維持しやすくなります。とくに日本人は骨格的に口元が引っ込みすぎると老けた印象になりやすいため、非抜歯矯正は顔貌の審美バランスを重視する方に適しています。

 

ただし、突出感が著しい場合には、非抜歯にこだわることで逆に審美的バランスを損なうこともあるため、専門的な診断が必要です。

 

  1. 抜歯に伴う身体的・精神的負担が少ない

抜歯処置には、局所麻酔・術後の疼痛・出血・腫脹・感染などの身体的リスクがつきものです。親知らずなどの難抜歯の場合には、手術時間の延長や骨削除が必要になるケースもあり、患者さんにとっては大きなストレスとなり得ます。

 

非抜歯矯正ではこれらの処置を避けることができるため、肉体的・精神的な負担が少なく、治療開始への心理的ハードルを下げることが可能です。とくに歯科恐怖症のある方、既往歴の多い高齢患者さんにとっては、外科的侵襲を回避できるメリットは非常に大きいといえるでしょう。

 

また、抜歯に伴う全身的リスク(抗凝固薬内服中の出血傾向、糖尿病患者の感染リスクなど)を考慮する必要がある患者さんに対しても、非抜歯の選択肢が治療の幅を広げる要因となります。

 

▼非抜歯矯正のデメリット

 

  1. 適応症例が限定される

非抜歯矯正は、すべての患者さんに適応できる治療法ではありません。歯のサイズと顎の大きさのバランスが取れていない場合、特に「小顎症(顎が小さい)」で歯が並ぶスペースが極端に不足している場合には、歯列内にすべての歯を収めようとすると前歯が前方へ突出することになります。

 

これにより、上下の前歯が前突する「上下顎前突」という状態になり、横顔のライン(Eライン)から唇がはみ出し、審美的にも機能的にも問題が生じます。いわゆる「ゴリラ顔」と揶揄されるような前方への口元の突出は、見た目だけでなく、口唇閉鎖不全や口腔乾燥によるむし歯・歯周病リスクの上昇、さらには睡眠時無呼吸症候群を悪化させる要因になることもあります。

 

適応できるかどうかは、頭部X線規格写真(セファログラム)による骨格診断や、歯列模型分析、叢生の度合いの評価を通して慎重に判断されるべきです。無理な非抜歯方針は、結果的に不正咬合や顎関節症のリスクを招くため、正確な診断と計画立案が極めて重要です。

 

  1. 過度な歯列拡大によるリスク

非抜歯矯正では、歯列弓(アーチフォーム)を側方や前方に拡大することでスペースを作るアプローチが用いられます。ただし、歯の移動には限界があり、歯根が歯槽骨の支持から逸脱する「骨外移動」を起こすと、歯肉退縮や骨吸収、最悪の場合には歯の動揺や喪失につながることもあります。

 

また、歯槽骨から逸脱した歯には角化歯肉が薄く、ブラッシングによる歯肉退縮が起こりやすくなるため、歯肉の審美性や長期的な歯周組織の健康を損なうリスクが伴います。特に、上顎犬歯の外側移動は頬側骨壁が薄いため慎重な判断が求められます。

 

このようなリスクを避けるためには、CTやデジタルシミュレーションを活用し、歯根の位置や歯槽骨の厚みを確認したうえで、生物学的限界を超えない範囲での拡大を行うことが基本となります。

 

  1. 治療期間が長くなる傾向がある

非抜歯矯正は、歯を抜くことで一気に得られるスペースを確保せずに治療を進めるため、歯列の拡大や歯の傾斜、遠心移動(歯を後方へ移動)などを複数段階に分けて行う必要があります。そのため、治療期間が相対的に長引く傾向があり、全顎矯正では平均で2年〜3年程度を要するケースも少なくありません。

 

さらに、成長が完了した成人では骨の可塑性が低下しているため、子どもと比べて歯の移動に時間がかかる傾向があります。拡大が難しい骨格では、必要な歯の動きが制限され、治療効果が出にくいこともあります。

 

矯正治療が長期に及ぶことで、患者さんのモチベーション低下やリテーナー管理の不徹底といった問題も発生しやすくなります。そのため、治療期間を適切に見積もり、定期的な目標の共有が欠かせません。

 

  1. 後戻りリスクが高く、保定が重要になる

非抜歯矯正では、歯列を拡大したり、前歯を外側に傾斜させたりして得た位置は、不安定な状態であることが多く、治療終了後に後戻りが起こりやすいという問題があります。

 

特に、アーチ幅を広げた場合や、もともとスペースが不足していた歯列に無理やり歯を並べた場合には、歯は元の位置へ戻ろうとする力(生理的な筋圧や咬合圧)により、再び歯列不正が生じるリスクが高まります。

 

このため、リテーナー(保定装置)の使用は必須であり、最低でも2〜3年、症例によっては終生にわたる夜間装着が推奨されることもあります。保定を怠ると、それまでの努力が水の泡になることも少なくありません。

 

また、保定期間中は、歯周組織の再構築(リモデリング)が進む重要な時期でもあるため、定期的な噛み合わせのチェックやクリーニング、MFTの継続が後戻り予防に不可欠です。

 

▼まとめ

非抜歯矯正には、健康な歯を残せる・顔貌への影響が少ない・治療への心理的ハードルが低いといった魅力的なメリットがあります。一方で、すべての症例に適応できるわけではなく、治療の限界や後戻りのリスクなども慎重に考慮する必要があります。

 

矯正治療は「非抜歯か抜歯か」という二択ではなく、患者さん一人ひとりのお口の状態やご希望を踏まえた、オーダーメイドの治療が求められます。鶴岡歯科医院では、矯正専門の医師が丁寧にカウンセリングを行い、患者さんにとって最良の治療方針をご提案いたします。非抜歯矯正をご検討中の方は、ぜひ一度ご相談ください。