皆さん、こんにちは。鎌倉駅西口より徒歩3分の鶴岡歯科医院です。
矯正治療中は「歯並びが整ってきれいになる」という期待がある一方で、「むし歯になりやすいのでは?」と不安に感じている患者さんも多いのではないでしょうか。実際、矯正装置の影響でお口の環境が変化し、むし歯リスクが高まることがあります。しかし、正しい知識とケアを行えば、矯正中でもしっかりむし歯を予防することは可能です。本記事では、矯正中にむし歯になりやすくなる原因を5つの視点から解説し、むし歯を防ぐために大切なポイントを詳しくご紹介します。矯正治療を安心して進めるためにも、ぜひ最後までお読みください。
▼矯正中にむし歯になる原因
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装置の周囲に歯垢が溜まりやすくなる
矯正中の代表的なむし歯リスクの一つが、「矯正装置の周囲にプラーク(歯垢)が停滞しやすくなる」ことです。特にブラケットやワイヤーを使用するワイヤー矯正では、歯の表面に複数の凹凸が生じ、通常の歯よりも清掃が困難になります。プラークはミュータンス菌などのむし歯原因菌を多く含み、これらが糖質を代謝して酸を産生することで歯の脱灰が始まります。加えて、矯正装置が唾液の流れを遮断することもあり、唾液による再石灰化作用や口腔内のpH緩衝機能が低下しやすくなるため、むし歯の進行が促進されやすい環境となります。
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歯磨きがしにくくなる
矯正装置によって歯面が複雑な形状になると、従来通りのブラッシングでは清掃効果が十分に得られません。特にブラケットの周囲や歯と装置の隙間は、歯ブラシの毛先が届きづらく、磨き残しが蓄積しやすくなります。歯垢の除去率が低下することで、局所的な酸性環境が持続し、エナメル質の脱灰が進行します。また、清掃が不十分な状態が続くと、むし歯に加えて歯肉炎や歯周炎を引き起こすリスクも増します。特に下顎前歯部や臼歯部の頬側は盲点になりやすいため、注意が必要です。
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間食が増える・食事時間が長くなる
矯正中の痛みや違和感によって「少しずつ食べる」傾向が強まることで、食事の頻度や時間が増えがちです。これは、口腔内が酸性環境にさらされる時間が長くなることを意味し、いわゆる「脱灰の窓」が延長されることになります。エナメル質が酸に曝されている時間が長いほど、再石灰化が間に合わず、むし歯リスクが高まることが複数の研究で明らかになっています。さらに、糖質を含む飲食物を頻繁に摂取することで、ミュータンス菌の増殖と酸産生が加速されます。
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唾液の流れが悪くなる
唾液は、むし歯予防において非常に重要な生体防御因子です。唾液の持つ緩衝能(pHを中和する力)や抗菌作用(リゾチーム、ラクトフェリンなど)は、むし歯菌の活動を抑制し、脱灰された歯質の再石灰化を促します。しかし、矯正装置が頬粘膜や舌の動きを妨げることで、唾液の分布や流れが局所的に低下し、これらの作用が十分に発揮されなくなることがあります。特に口呼吸や薬剤の影響でドライマウス傾向にある方では、リスクはさらに増大します。
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自覚症状が出にくく発見が遅れる
矯正中は、歯の移動に伴う痛みや違和感が日常的にあるため、初期むし歯の徴候である「しみる」「軽い痛み」などの症状に気づきにくくなります。また、矯正装置によって歯面の一部が視認しにくくなることから、セルフチェックによる早期発見が難しくなる傾向もあります。さらに、ホワイトスポット(初期むし歯の白濁病変)などの変化は、気づかずに進行してしまうこともあるため、歯科医院での定期的な観察と専門的なチェックが不可欠です。
▼矯正中のむし歯を防ぐ方法
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矯正専用の歯ブラシや補助器具を活用する
矯正中の口腔ケアは、通常以上に丁寧なプラークコントロールが求められます。特にワイヤー矯正では、ブラケットやワイヤーの周囲に食片やプラークが付着しやすく、一般的な歯ブラシでは清掃が不十分になりがちです。
このため、V字カットブラシやワンタフトブラシ、歯間ブラシなどの補助器具を併用することが推奨されます。V字ブラシはブラケットの上下を効率的に磨ける設計で、ワンタフトブラシは歯の裏側や装置の隙間など狭い部位に適しています。歯間ブラシは歯と歯の間のプラーク除去に有効であり、適切なサイズ選択と使用方法が重要です。これらの器具を組み合わせて使うことで、口腔内全体の清掃効率が高まり、脱灰リスクを大幅に低下させることが可能です。
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フッ素による再石灰化を積極的に促す
フッ素は、歯のエナメル質に作用して耐酸性を高め、脱灰された歯質の再石灰化を促進する科学的根拠のある物質です。矯正中はむし歯のリスクが高いため、フッ素濃度1,000〜1,450ppmの歯みがき剤を使用することが望ましいとされています。
特に、食後や就寝前の使用が効果的です。加えて、フッ化物配合の洗口液を併用することで、口腔内全体にフッ素を行き渡らせ、プラーク内での酸産生を抑制する効果も期待できます。フッ素は継続的に使用することでその効果が高まるため、日常的に取り入れることが重要です。
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食習慣を整え、脱灰のリスクを下げる
糖質の摂取は、むし歯の発症において最も強く関連する因子の一つです。とくに、砂糖を含むお菓子や清涼飲料水は、口腔内のpHを急激に低下させ、歯の表面を脱灰状態にします。矯正中は咀嚼効率が下がることで間食が増えやすく、唾液による中和作用が追いつかなくなるため、食事の回数や内容に注意が必要です。
間食はなるべく控え、甘味を摂る場合は時間を決めて摂取し、口腔内が酸性環境にある時間を最小限にとどめるようにしましょう。また、噛むことで唾液分泌が促進されるため、よく噛む習慣も脱灰予防に有効です。水分補給には、糖分を含まない水やお茶を選ぶことをおすすめします。
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定期的な歯科検診とプロフェッショナルケアを受ける
矯正治療中は、口腔衛生状態が悪化しやすいため、通常よりも短いサイクルでの定期的な歯科検診が推奨されます。とくに、装置周辺のプラークはセルフケアでは除去しきれないことが多く、歯科衛生士による専門的なクリーニング(PMTC:Professional Mechanical Tooth Cleaning)が極めて有効です。
歯石除去や着色除去に加え、歯科医院でのフッ素塗布も再石灰化の促進に寄与します。さらに、定期検診ではホワイトスポット(初期むし歯)や歯肉の炎症の早期発見・介入が可能となり、治療の中断や延長といったリスクを未然に防ぐことができます。
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治療開始前にリスク評価と予防処置を行う
矯正治療を開始する前に、むし歯の既往歴や歯質の状態を正確に評価することは極めて重要です。むし歯の有無だけでなく、唾液の分泌量やpH、緩衝能などを測定する「唾液検査」も、個々のむし歯リスクを客観的に判断するうえで有用です。
むし歯がすでに存在する場合は、矯正前に確実に治療を行うことが原則です。加えて、歯の溝に対してシーラント(予防填塞)を施す、定期的なフッ素塗布を受けるといった予防処置を併用することで、矯正中の新たなむし歯リスクを低減させることが可能です。治療開始時には、患者さんご自身の口腔内の状態に合わせた予防プランを立てることが大切です。
▼まとめ
矯正中にむし歯になるリスクは確かに高くなりますが、正しい知識と適切なケアを行うことで、十分に予防することができます。装置の構造や生活習慣の変化を理解し、丁寧な歯みがき、フッ素の活用、食生活の見直し、定期検診の継続などを意識することで、矯正中も健康な歯を保つことができます。鶴岡歯科医院では、矯正治療中の口腔ケアについても丁寧にサポートしていますので、不安な点があればお気軽にご相談ください。美しい歯並びと健康な歯の両立を目指しましょう。